■マルチメディアという言葉
いろいろな分野で、「マルチメディア」という言葉が聞かれるようになりました。
人それぞれに語られるマルチメディア像はまた人それぞれに違っており、便利な技術という認識の人や、これからの社会が変わるという認識の人、「よく解らないけれど、まあいいや」という認識の人など、語り手も聞き手も、このテーマに関しては様々です。
もともと言葉が先行し、イメージが膨らんできたにすぎないわけですから、議論すべき土俵もまちまちで、ボタンのかけ違い状態が生じても当然です。
しかし、ここで一つ確認しておかなければならないのは、マルチメディアブームの背景に斬新な技術革新があったわけではない、ということです。
たしかに、ここ十数年間のコンピュータ技術・通信技術の進歩には、目をみはるものがあります。しかしそれは、単に部品レベルでの集積化・高度化の技術が進歩してきたにすぎず、 技術イノベーションや、世界を揺るがす新発見は存在していません。
それよりも、社会における何らかの必要性と、これからの方向を示す必然性が背景にあり、このようなブームを生んだと考える方が適切です。
その必要性や必然性も、「景気が低迷しているから明るい未来像を」とか、「日本国内だけで百数十兆円の市場規模を生むバラ色の世界」とか、そんな経済的次元の議論ではなく、もっと根本的な人間社会のこれからのことに関わっています。
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バーチャル社会と意識進化
意識のネットワークからはじまる日本の役割
第1章 マルチメディア──その真実の姿 / 川合 アユム
まさに今、私たちは二十世紀末という大きな節目を迎えようとしており、在来次元での考え方や価値観では、地球環境に限界が生じることが指摘されています。
マルチメディアブームの背後にある、その大きな意識のうねりが、私たちに最後に残されたチャンスなのかもしれません。
■何が社会を変えるのか
マルチメディアのもたらす未来像というものも様々です。
本当のところ、マルチメディアのもたらす社会変化は、私たちの生活や仕事や生き方を、どのように変えていくのでしょうか。
いわく
・各家庭を光ファイバーでむすぶ情報スーパーハイウェイ構想
・インターネットなどパソコン・ネットワークの世界的な普及
・居ながらに買い物ができるホーム・ショッピング、ホーム・バンキング
・好みの番組を自由に呼び出せる、ビデオ・オン・ディマンド
・遠隔教育―あらゆる教育システムの高度化
・CD-ROMを使った高度なゲームとバーチャル・リアリティの世界
・電子メールとテレビ会議
・LAN(ローカルエリア・ネットワーク)の本格普及
・社会の「仮想」化と新産業の創出
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バーチャル社会と意識進化
意識のネットワークからはじまる日本の役割
第1章 マルチメディア──その真実の姿 / 川合 アユム
これら世間に流通しているマルチメディア未来像のうち、どの部分が実像で、どの部分が幻想や期待に水増しされたものなのか。
マルチメディア時代をリードしていくコンセプト (概念)は、どんな要素を含んでいるのか。
ブームのムードに酔って対応を誤らないためにも、これらの点をしっかり見極めておくことが必要です。
■大きな誤解
マルチメディアを論じるとき、その本質を見誤らせてしまう無意識の前提、あるいは〝誤解〟を、まず指摘しておかねばなりません。
マルチメディアとは―――
「パソコン等の情報端末装置を光ファイバーなどで結んだネットワークのことであり、そのネットワークを媒介して、映像・音声などの様々な情報を、送り手と受け手の双方向(インタラクティブ)にやりとりするシステムの総体」
マルチメディアを表わすキーワードとは―――
「デジタル・インタラクティブ・ネットワーク・インテグレーション(統合体)」
これらの表現が、全く間違っているとはいえません。しかし、これらの表現はマルチメディアを単なるテクノロジーの進歩、インフラ (インフラストラクチャー=基礎設備) 整備の問題、新しい製品技術として捉えています。
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バーチャル社会と意識進化
意識のネットワークからはじまる日本の役割
第1章 マルチメディア──その真実の姿 / 川合 アユム
ところが実際、マルチメディアには、もう一つの重要な側面があるのです。
それを見逃しているところに、議論の限界があると同時に、きたるべきマルチメディア社会の重要な変化を誤認させてしまう要因がひそんでいます。
マルチメディアは、テクノロジーであると同時に、テクノロジーをはるかに越えて、社会を変革していく、経済を変化させていく、ひいては人間を変化させていく巨大な可能性を秘めていることを、この理解は見逃しています。
■マルチメディアの三系統
一般にマルチメディアといわれているものは、次の三種類に分類することができます。
①メディア系
CD-ROMに代表される光媒体や、フロッピーディスクなどの磁気媒体、これらを利用した様々なソフトウェアが数多く開発され、話題を集めています。
その内容も、百科事典や映像データベース、インタラクティブ・ムービーなど盛りだくさんで、今後もますます、面白いものや便利なものが登場することでしょう。
これらは、映像や生の音といった、立体的表現能力があり、インタラクティブ(対話型)ではありますが、それはプログラムや収録されたデータの範囲内のことで、内蔵された情報そのものは変化しません。
その意味で、これらメディア系マルチメディアは本質的に、旧来の書物と変わりのないものと考えることができます。
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バーチャル社会と意識進化
意識のネットワークからはじまる日本の役割
第1章 マルチメディア──その真実の姿 / 川合 アユム
②放送系
放送系にはCATV(ケーブルテレビ)、衛星放送などがあります。
ビデオ・オン・ディマンドでは、ユーザーが自分の見たい番組を放送局にリクエストし、好きな時間に、自分の好きな番組や映画を見ることができるようになります。
確かに便利なサービスではありますが、これも単に放送局が所蔵している有限なるデータが選択できるというだけであって、本当の意味でのインタラクティブ性はありません。
ここで重要なのは、情報の発信能力は放送局の側だけにあり、消費者である個人にはないということです。
③通信系
通信系には、パソコン通信やインターネットがあります。
この分野はすでに、多くのデータベースやサービスネットワークが開業しており、利用者も急増しています。利用者は、様々な情報を自由に取り出したり、発信したりと、本当の意味でのインタラクティブ性を発揮することが可能です。
前述のメディア系、放送系との大きな違いは、通信相手先の情報や意識がとどまることなく時々刻々変化している(変化できる状態になっている点にあります。
これら三系統に分類できるマルチメディアのうち、社会の構造変革をおこし得る影響力をもっているのは、通信系マルチメディアであると考えられます。
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バーチャル社会と意識進化
意識のネットワークからはじまる日本の役割
第1章 マルチメディア──その真実の姿 / 川合 アユム
■生きた情報と死んだ情報
「変化こそ生命」という言葉があります。
…「生命(いのち)あるものすべては、とどまることなく変化している」───海も、山も、空も、動物達も人間も、大自然そのものは常々変化しており、その変化そのものが生命であるという考え方です。
逆に机の上のコップなど、物質と呼ばれるものは自らの力によって変化できなくなった状態(経年劣化などの外的要因でしか変化できず、時間と共に風化していくしかない状態)、すなわち、死んでいる状態(生命の宿っていない状態)と考えることができます。
この言葉を情報にあてはめて考えると、生きた情報と死んだ情報に分けることができます。
データベースは日々更新され、メンテナンスの行き届いた状態でのみ、新鮮な生きた情報としての価値を得ることができます。
しかしCD-ROMに収集・蓄積された情報は、製造 (プレス) された時点ですでに過去の情報であり、百年後においてもその内容は変化せず同じ状態です。
CD-ROM自身は変化する能力をもち得ず、まさに死んだ情報という捉え方ができます。
人間社会は、いうまでもなく変化し続けています。 この変化を捉えること、それが、今までにない大きな力をもつという点が、「マルチメディアがもたらす社会構造変革」を議論する上での、重要なポイントとなります。
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意識のネットワークからはじまる日本の役割
第1章 マルチメディア──その真実の姿 / 川合 アユム
■社会構造に変革をもたらすマルチメディアの定義
それでは、社会を変革する力を備えたマルチメディアとは、一体どういうものなのでしょうか。
私は次のように定義しています。
「社会構造に変革をもたらすマルチメディアとは、無限に変化し、増幅する情報 (映像・データ・音声など)に対して、インタラクティブな通信によるアクセスが実現できるしくみ」
過去の現象や人の意識は、情報という形態に置き換わり、時間の流れを吸い込むように無限に変化し増幅していきます。
この情報に対して、インタラクティブにアクセスができるしくみ──すなわち通信系マルチメディアこそが、社会構造変革のカギを握っています。
■通信系マルチメディアの代表格
「インターネット」
通信系マルチメディアの代表格はインターネットです。このインターネットは、社会の構造変革を促すポイントを備えています。
現在、世界中のネットワークがインターネットによって相互接続され、居ながらにして世界を旅することができます。
WWW (World Wide Web) サーバーをもつ組織や個人に、様々なネットワークを介して訪問し、提供されるサービスや情報を利用することが可能です。
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意識のネットワークからはじまる日本の役割
第1章 マルチメディア──その真実の姿 / 川合 アユム
例えば、あなたが自動車メーカーに接続すれば、新車情報がすぐ手に入ります。
カタログ請求して郵送されてくるまでの待ち時間に、イライラすることもありません。
博物館に接続すれば、館内に展示されている資料の内容を訪問以前に下調べすることができるほか、その博物館に行くまでの交通手段や所要時間、開館時間など、多岐にわたった情報を得ることが可能です。
また大学では、学部や学科の紹介、キャンパス内情報や地域の観光名所、付近のラーメン屋マップなど、ユニークな情報が提供されています。
情報は取り出すばかりでなく、自分自身でWWWサーバーを設置し、世界中の人たちに情報発信することができます。
インターネットに接続されているネットワークは四万とも五万ともいわれ、九十か国以上の国々が一つのネットワークを形成しており、その利用者数は三千万人を越えるといわれています。まさに、「地球大の脳」という表現ができます。
しかし、インターネットには大切なことが見逃されており、社会構造を変革し、明るい未来を創り出すとは思えない状態にあります。
インターネットが提供している機能は、あくまで「データベース・アクセス」であり、人間のコミュニケーションをサポートする機能がきわめて弱い点にあります。
確かに、ビジネスや研究における非常に有効なツールですが、そこには自ずと限界があり、人間の心を基準とした未来社会像とは、ほど遠い世界です。
現実に、一部マニアの熱狂的なインターネット支持に対して、パソコンの操作もままならない多くの人達は、戸惑いを隠せない様子です。
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意識のネットワークからはじまる日本の役割
第1章 マルチメディア──その真実の姿 / 川合 アユム
■マルチメディアの本質は
「人」対「人」の意識コミュニティ
インターネットを含めたパソコン通信の世界は、非常に大切なことを見逃しています。
いや、見逃されているというよりは、構造的な限界といった方がいいかもしれません。
それは、情報ネットワークが単に情報の蓄積・取り出し・分析に止まるものではなく、人と人の意識コミュニティ支援ツールでなければならない、ということです。
重要なのは、
① 「人の意識通信」であること。
② 「人の感性伝達」であること。
③ 「ヒューマン・オリエンテッド」(人間志向)であること。
すなわち、情報ネットワークは、よくいわれるように、「人」が「情報」に向き合うものだけではなく、「人」が「人」に向き合うものだということが大切なポイントで、これがマルチメディアの豊かな可能性を具現化する重要なファクターです。
巷に流通しているマルチメディア論やネットワーク論においては、この点についての言及がなされていません。
よくいわれる、仮想社会 (バーチャル・ソサエティ)と現実社会 (リアル・ソサエティ)の関係を考えるとき、この三つのポイントがおさえられていないと、全く違ったイメージができあがり、人間を無視した冷たい未来社会像に行き着いてしまいます。
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意識のネットワークからはじまる日本の役割
第1章 マルチメディア──その真実の姿 / 川合 アユム
また、ネットワーク社会の問題点 (セキュリティやプライバシー)に関する議論も、人と人が向き合うものであるという原則を考えれば、比較的簡単に解決できます。
■「意識」と「知識」と「情報」の関係について
「意識」という言葉が、 何度か出てきました。この言葉は、これからの説明を進めていくうえで、非常に重要なキーワードになっています。 言葉の捉え方が違うと、全く理解できなかったり、微妙なニュアンスの違いが生じる可能性があります。そのようなことにならぬよう、れらの言葉の定義をしておきます。
「意識」とは――
①生命体の、物事に気づく心や、状況・問題のありようを知る精神作用。
②生命体の、思考・感覚・意志・直感などを含む、広く精神的なものの総体。
「知識」とは――
①生命体の、物事について知っていることがら。
②生命体が、物事について理解したことや認識したこと。
「情報」とは――
①物事や出来事、事物に関する知らせ。
②ある特定の目的について、適切な判断を下したり、行動の意思決定をするために役立つ資料やデータの総体。
「意識」と「知識」と「情報」には、次図に示すような関係があります。
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意識のネットワークからはじまる日本の役割
第1章 マルチメディア──その真実の姿 / 川合 アユム
図のとおり、情報には特定の形がなく、様々な形態で私たちの周りを、電波のように浮遊していると仮定してみてください。
実際、今の社会には、大変な量の情報が私たちの周りに存在しています。 ですが、その情報をキャッチし、生かすには、意識と知識のバランスが要求されます。
ラジオにたとえると、アンテナの性能が「意識の高まり」、受信できる周波数帯域の幅が「知識の蓄積」になります。いくら知識が豊富であっても、意識が低ければ、その情報はキャッチできません。学校でどれだけ多くの知識を蓄積しても、社会で役立てることができない事態に陥るのは、このためです。
ここに、意識と知識のバランスの重要性が理解いただけると思います。
情報というものは、意識と知識のバランスによって初めて有効になるものであり、それが新たな「意識の高まり」や新たな「知識の蓄積」につながるものでなければ、意味がありません。このことを、高度情報化社会やマルチメディアのもたらす社会変革を考える上で、整理しておく必要があります。
■「知識のネットワーク」と「意識のネットワーク」
意識と知識は、コンピュータやネットワークの世界において明確な分類がなされておらず、混沌とした状況にあります。
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第1章 マルチメディア──その真実の姿 / 川合 アユム
しかし、このように意識と知識には、その性質に根本的な違いがあり、ネットワークにも、それぞれ違った役割が存在すると考えることができます。
パソコン通信やインターネットは、データベース検索をその基本動作としており、「人」が「知識や情報」に向き合うもの――「知識のネットワーク」と考えることができます。
これは、知識や情報を共有化することを目的とし、多くの人がそのデータベースを利用することによって存在価値があります。
では「意識のネットワーク」とは、どういったものでしょうか。
意識は簡単にはデータベース化できず、感覚的な要素や思いに相当するものは、文字などに置き換えて、多くの人が利用できるというものではありません。
これは人から人へ、フェイス・トゥ・フェイスで直接的に伝達していくものです。
この「人」と「人」と向き合うネットワークを、「意識のネットワーク」と呼びます。
こちらは、自分の求める人との出会い、直接的な情報交換、直接の会話によって、様々な交流や感性の伝達を目的としたネットワークです。
前に述べたとおり、あくまで人間主体であり、人の感性が十分に伝達できるということが重要なポイントです。
この「意識のネットワーク」は、現在のところ、これといったサービスが存在しません。
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意識のネットワークからはじまる日本の役割
第1章 マルチメディア──その真実の姿 / 川合 アユム
あえて挙げるならば、パソコン通信やインターネットの電子メール機能、フランス・テレコム社のサービスであるミニテル、日本のテレクラ、 その他アマチュア無線の世界、地域社会で活性化しているコミュニティサークル活動などが、人と人の出会いを支援するという意味合いにおいて、近い位置づけにあるといえます。
これらの二種類のネットワークは、それぞれの長所・短所を有しており、互いに相補的役割を担うものと考えられます。
少々説明が難しくなってしまいましたが、要は、人の気持ちや微妙なニュアンスを含めたコミュニケーションは、現在のネットワーク (パソコン通信やインターネット)ではダメだということで、パソコンに不慣れな人が「これからの情報化社会についていけなくなるのでは?」との心配は全く不要であるということです。
■新しいネットワーク・コンセプトが必要
では、「人」と「人」を結ぶ、ヒューマン・オリエンテッドな「意識のネットワーク」とは一体どんなものなのでしょうか。
もう少し踏み込んで、そこで必要な条件を考えてみましょう。
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バーチャル社会と意識進化
意識のネットワークからはじまる日本の役割
第1章 マルチメディア──その真実の姿 / 川合 アユム
①操作や利用が簡単であること インターネットやパソコン通信を自在に操るには、かなりの専門知識と労力が必要です。パソコンの操作ができることは最低条件であり、そのほかにネットワークの知識や周辺機器の知識などが必要で、キーボードに触れたこともない人がこの世界に飛び込むには大変なハードルになります。特に、機械に弱い高齢者の方々が、情報化や社会の流れにおいてきぼりを食わぬようにと努力されたとしても、おそらく無理があるでしょう。
ネットワークやその端末装置が、人間に対してトレーニングを要求するものであってはなりません。
②人間のもつ「感性」の伝達ができること
人は「感性」という、目に見えない情報交換を無意識に行なっています。
手紙は、ワープロで書くより、手書きの方が伝わりますし、電話で話すより、直接会って話す方が、自分の気持ちは伝わりやすくなります。
通信やネットワーク技術がどれほど進歩しても、人と人との直接交流以上の情報密度は達成できないでしょう。
パソコンベースの通信では、キーボードを通した文字データや、画像を取り込んだデジタルデータのやりとりしかできません。
人間の感性伝達のメカニズムがもっともっと反映されていなければ、心は通いません。
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意識のネットワークからはじまる日本の役割
第1章 マルチメディア──その真実の姿 / 川合 アユム
③偶然性があること
人間社会は、様々な偶然の中で、変化のきっかけを得ます。偶然出会った人が自分を変えたとか、偶然もらった本が自分の生き方を決めるきっかけになったとか、偶然というものは大切必然性を秘めています。
パソコン通信では、データベース・アクセスが基本であるため、目的とする内容に効率的にたどり着けるよう、設計されています。様々な内容は、メニューやフォーラムという分類にわかれ、利用者はそれを選びながら必要とするデータに出会います。
これでは、なかなか偶然性が生かされません。思いがけぬ偶然性を誘発させるメカニズムがネットワークにも必要です。
これらの要件を満たした新しい意識のネットワーク・コンセプトが近い将来に生まれ、インターネットなどの知識のネットワークが組み合わされることで、本当の意味での社会構造の変革が始まっていくことでしょう。
■日本は通信インフラ先進国
それでは、本格的なマルチメディア・ネットワークは、いつごろ実現し、それはこの社会にどんな変化をもたらすのでしょうか。
巷でいわれているように、マルチメディアに関しては、アメリカがダントツに進んでいて、日本ははるかにその後塵を拝する後進国なのでしょうか。
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バーチャル社会と意識進化
意識のネットワークからはじまる日本の役割
第1章 マルチメディア──その真実の姿 / 川合 アユム
日本ははるかにその後塵を拝する後進国なのでしょうか。
日本は確かに、パソコンを含む情報機器の普及率やその利用技術に関して後れをとっていますが、ネットワーク・インフラの整備状況や社会背景などを含めて考察すると、決してマルチメディア後進国とはいえません。
もともと日本でマルチメディアが騒がれ始めたのは、アメリカのゴア副大統領が全米に光ファイバー網を敷設する「情報スーパーハイウェー構想」を発表したことに端を発しています。
しかしその構想は、日本のISDN (Integrated Services Digital Network サービス総合デジタル網)の整備状況を見て、米国が脅威に感じた結果の発言であったことは、あまり知られていません。
それ以来、マスコミは「日本は遅れている」「マルチメディアをめぐる状況はすべての点でアメリカに遅れをとっている」という議論をこぞって流し始めました。
書店の店頭を賑わしている本も、いたずらに後進ニッポンの危機感を煽るだけのものが少なくありません。
ところが、実際は逆なのです。
日本のISDNは、一九八八年四月より「INSネット」の名称でNTTが一般向けにサービスを開始しており、現在までに三十二万回線を越える利用者がいます。
日本全国の電話交換機の多くはISDN対応となり、一般家庭での利用者も増加しているという、すでに身近な高性能電話回線です。
最近では、新たに設置されている新型公衆電話 (グレー色)に「ISDN」と記されているのを見られた人も多いかと思います。
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バーチャル社会と意識進化
意識のネットワークからはじまる日本の役割
第1章 マルチメディア──その真実の姿 / 川合 アユム
日本ははるかにその後塵を拝する後進国なのでしょうか。
日本は確かに、パソコンを含む情報機器の普及率やその利用技術に関して後れをとっていますが、ネットワーク・インフラの整備状況や社会背景などを含めて考察すると、決してマルチメディア後進国とはいえません。
もともと日本でマルチメディアが騒がれ始めたのは、アメリカのゴア副大統領が全米に光ファイバー網を敷設する「情報スーパーハイウェー構想」を発表したことに端を発しています。
しかしその構想は、日本のISDN (Integrated Services Digital Network サービス総合デジタル網)の整備状況を見て、米国が脅威に感じた結果の発言であったことは、あまり知られていません。
それ以来、マスコミは「日本は遅れている」「マルチメディアをめぐる状況はすべての点でアメリカに遅れをとっている」という議論をこぞって流し始めました。
書店の店頭を賑わしている本も、いたずらに後進ニッポンの危機感を煽るだけのものが少なくありません。
ところが、実際は逆なのです。
日本のISDNは、一九八八年四月より「INSネット」の名称でNTTが一般向けにサービスを開始しており、現在までに三十二万回線を越える利用者がいます。
日本全国の電話交換機の多くはISDN対応となり、一般家庭での利用者も増加しているという、すでに身近な高性能電話回線です。
最近では、新たに設置されている新型公衆電話 (グレー色)に「ISDN」と記されているのを見られた人も多いかと思います。
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バーチャル社会と意識進化
意識のネットワークからはじまる日本の役割
第1章 マルチメディア──その真実の姿 / 川合 アユム
■強力なISDNパフォーマンス
ISDNは、電話・ファクシミリ・データ通信などを統合的に運用できる高速デジタル通信サービスで、通話料などは従来電話と同じです。(基本料は少し高い)
従来の一般電話回線(アナログ回線)では、 フロッピーディスク一枚分のデータを転送しようとすると、おおよそ四十分近い時間がかかりましたが、ISDNではわずか三分で転送が可能です。 (INSネット64の場合)
このように安価で、高速に、安定した通信速度を確保できる、 ポテンシャルの高い、新しい電話回線と位置づけられます。
日本は、世界に誇れるISDN先進国。 逆に、 アメリカは大きな遅れをとっています。
アメリカは、国土が広大で、ISDNの普及密度は日本と比べものにならない稀薄さです。
確かに、FTTH (Fiber To The Home 家庭に光ファイバーケーブルを引き込む) 構想の情報転送能力と現状のISDNの能力とでは雲泥の差があり、できることや通信速度に不満がないわけではありません。
しかし、今現在できあがっているものと、今からやろうというものとは、現実的に大きな差となって現われます。
このように、ISDNは通信系マルチメディア発展のための強力なインフラで、今後の流れを大きく変えていくことでしょう。
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バーチャル社会と意識進化
意識のネットワークからはじまる日本の役割
第1章 マルチメディア──その真実の姿 / 川合 アユム
■日本がMNS創生国になる
このように、日本には高速データ通信のための基盤がすでにできあがっています。
これは情報分野の今後の展開にとって大切なポイントですが、それ以上に、日本のおかれている社会背景に起因する日本人の意識変化が、新しい仕組みの生まれる原動力となります。
この詳細は第3章で述べますが、アメリカと比較した日本の特徴は、次の三点に集約することができます。
①生活水準、教育水準が平均して高いレベルにあり、格差が少ない。
②全体意識と個人意識の調和がとりやすい時代にある。
③戦後世代を中心とした、新しい価値観をもった人達の存在。
日本は、世界に先駆け、マルチメディア・ネットワーク・サービス (Multimedia Network
Service 以下MNS) が成長する条件を備えています。
マルチメディアがもたらす社会変革 ───。
その変革の主体は、アメリカではなく、他ならぬこの日本が担っていくと私は考えます。
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バーチャル社会と意識進化
意識のネットワークからはじまる日本の役割
第1章 マルチメディア──その真実の姿 / 川合 アユム